遺言書保管法のスタート

 遺言書保管法がスタートしました。
 この制度、簡単に言えば「自筆証書遺言を法務局が保管してくれる制度」なのですが、この法律ができた背景や、実際のメリット・デメリットを検証してみたいと思います。なお、以下は私見ですので、実際に検討される方は司法書士や弁護士等の専門家にご相談ください。

法律ができた背景
 遺言書保管法は、従来の自筆証書遺言制度のデメリットを補う制度と言うことができます。遺言書は近年その件数が増えており(もちろん自筆証書遺言の件数は不明です。)、実際に自筆証書遺言の検認手続きは年々増加傾向にあります。しかし、この自筆証書遺言は家庭裁判所での検認手続きが必要なため、相続人がいざ遺言書を使って手続きをしようとしても迅速に進めることが困難でした。
 また、自筆という仕組みであるため、そもそも遺言書の存在自体が気付かれなかったり、紛失したり、改ざんのリスクや、遺言書の内容を巡って争いになったりすることも以前から指摘されていました。
 そんな従来の制度はどう変わったのか、実際にメリットを挙げてみてみましょう。
 メリット
 ①家庭裁判所での検認手続きが不要
  →おそらくこれが今回の目玉といってよいかと思います。公正証書遺言が公証役場で保管されるため紛失や改ざんのリスクを回避できるのと同じく、法務局が保管しているということは紛失や改ざんの恐れはほとんどないと言ってよいでしょう。
 ②保管にかかる費用が安い
  →保管であれば3,900円を支払うことになっています。

 このように、従来の自筆証書遺言を公正証書遺言に近づけたといっても過言ではない部分もあります。
 では、デメリットについても挙げてみましょう。

デメリット
 ①遺言者本人が法務局に行く必要がある。
  →昨今のコロナウィルス感染症の影響もありますが、遺言者が高齢だったり、身体が不自由な場合にも例外が規定されていないため、あくまでも本人が法務局まで行く必要があります(つまり代理制度がありません。なお、同行者がいても構わないとされています。)。この点は、改良の余地があると思われます。もちろん本人確認を厳格に行わなければならないという事情は非常によくわかるのですが。。。
 ②遺言書の有効性は保証されない。
  →あくまでも遺言書を保管してくれる制度なので、内容についての相談は想定されていません。形式的にはチェックしてくれるようですが、実際に利用する場合は、我々専門家等に相談してからの方が好ましいかと思われます。残された相続人等が使えない遺言書を手に入れても全く意味がありません。
 ③検認は不要だが、実際の遺言書使用の際の手間が煩雑である。
  →保管についての方法はそこまで難しくないようですが、実際に相続が開始し、いざ遺言書を使用する際には、また別の手続きに悩まされる可能性があります。詳細は別で記載いたしますが、そもそも「遺言書自体が存在しているのかを知っているか否か」によっても手続きは変わります。遺言者が事前に遺言書を作成した事実だけでも教えてくれればよいのですが、知らない場合は遺言書の検索をすることから始まります。そして、遺言書が存在していたとしても、今度は遺言書のデータ(遺言書の原本は法務局に保管されているため原則として持出しが不可能です。)を入手するために、戸籍謄本等を集める必要があります。実際の事例はこれから出てくるわけですが、おそらく我々のような専門職であっても書類の収集に手間がかかるため、遺言執行(遺言書を実際に使って相続手続きをすること)にはそれなりの時間がかかる場面も想定されます。「遺言執行を速やかに行う」という観点からは少し問題があるかと思いますが、これは制度上致し方ないかなという気もします。

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